大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(う)1828号 判決

被告人 高瀬清

〔抄 録〕

論旨は本件図画は高度の芸術的価値を有するものであるからその猥せつ性はその芸術性に昇化包摂せられて消失されていると主張するのであるが、本件図画は男女性交等の場面を露骨に描いたものであり、徒らに性欲を興奮または刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものであると認めるのに十分であるから原審が本件図画をもつて猥せつ図画と認定したことは固より相当であり、本件図画がたとい所論の如き芸術作品であるとしても、それだからといつてその猥せつ性を否定する根拠にはならない。けだし芸術性と猥せつ性とは別異の次元に属する概念であり両立し得ないものではないからである。また原判決の挙示する証拠によれば被告人は本件図画を不特定多教の者に対して行う目的で販売しあるいはその目的でこれを所持したものであること明白であり所論の如く特定人のみを対象としたものとは認められず、また本件図画の猥せつ性は一般社会において行われている良識すなわち社会通念に従つて裁判所が判断すべきものであり、たまたま本件図画を買い受けあるいは買い受けようとする人々が所論の如く本件図画によつて「羞恥心を害し、性欲を興奮刺戟し、性的道義観念に反する」危険をもたらす虞がなかつたと仮定しても、かくの如きは猥せつ性の有無を決定する標準となすことのできないことは固よりであり、本件図画を猥せつ図画と認むべきことは前叙の如くであるから、被告人の原判示本件図画の販売及び販売目的所持をもつて刑法第百七十五条の保護しようとする法益侵害の虞がないから違法性がないと主張する所論は到底採用できない。

(中村光 久永 鈴木)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!